個別指導と監査に強い、弁護士の鈴木陽介です。
ここでは、近畿厚生局の医科の個別指導での、診療録、傷病名に関する指摘事項をご説明します。 指摘事項は、近畿厚生局の公表資料「平成28年度 個別指導(医科)における主な指摘事項」に基づいています。
厚生局の個別指導、監査に臨む医師の方は、指導監査に詳しい弁護士への相談をお勧めします。個別指導、監査には、弁護士を立ち会わせるべきです。詳しくは以下のコラムをご覧いただければ幸いです。
【コラム】個別指導と監査の上手な対応法
1 診療録
1 診療録への必要事項の記載について
@外来患者及び入院患者の診療録について、医師による日々の診療内容の記載が全くない、又は極めて乏しい。
ア 医師法で禁止している無診察治療とも誤解されかねないので直ちに改めること。
イ 診療録は、保険請求の根拠となるものなので、医師は診療の都度、遅滞なく必要事項の記載を十分に行うこと。特に、症状、所見、治療計画等について記載内容の充実を図ること。
【例】
・ 創傷処置について、処置を行った範囲等の診療内容を診療録に記載していない。
・ 消炎鎮痛等処置について、実施した療法等の診療内容を診療録に記載していない。
・ 画像診断(超音波検査)の検査結果に係る所見を記載していない。
ウ 初診時において、診療録に患者から聴取した既往歴・現病歴・アレルギー歴についての記載をより充実すること。
A様式第1号(1)の1及び診療報酬明細書に記載している傷病名について、その傷病を診断した経緯又は根拠の記載がない、又は乏しい。
B様式第1号(1)の3に患者から徴収する一部負担金の徴収金額が適正に記載されていない。
2 紙媒体の記録について
@複数の保険医が一人の患者の診療に当たっている場合において、署名又は記名押印が診療の都度ないため、診療の責任の所在が明らかでない。
A記載内容の判読が困難である。
B鉛筆で記載している。診療録の記載はインク又はボールペンを用いて行うこと。
C修正液・塗りつぶしにより訂正しているため修正前の記載内容が判別できない。訂正の場合、二本線(見え消し)で抹消すること。
D診療内容について、医師以外の者が代行して記載しているにもかかわらず、医師が最終的に内容を確認した上で、署名又は記名押印を行っていない。
E診療録の記載をせず、メモが記載された付箋を貼付している。
3 電子的に保存している記録について
@最新の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第4.3版」に準拠していない。
ア 真正性
・ パスワードの有効期限を適切に設定していない。
パスワードは定期的に(2ヶ月以内)に変更すること。
・ 一つのID、パスワードを複数の利用者が使用している。
・ 電子媒体に保存する場合は、データの真正性の確保(虚偽入力、書換え、消去及び混合の防止・作成の責任の所在の明確化)を図ること。
イ 見読性
・ 情報内容を書面に表示した際に療養担当規則で定められた様式に準じておらず、必要な項目が表示できない状態にある。
ウ 管理体制、その他
・ 最新版の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第4.3版」に準拠するよう運用管理規程の更新を行う等、より適切な運用に努めること。
・ 医療従事者、関係職種ごとのレベルに沿ったアクセス管理を行っていない。
・ 検査オーダー等において、事務職員等が医師の補助者としてオーダーリングシステムの入力を代行する場合には、作成者の識別や医師の認証が確実に行えるよう、その運用については、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を遵守すること。
4 診療録の様式について
@労務不能に関する意見欄がない。
A業務災害等に関する欄がない。
B様式第1号(1)の3を作成していない。
5 その他
@保険診療の診療録と保険外診療(自由診療、予防接種、健康診断)の診療録を区別して管理していない。
A自家診療について、診療録の記載内容の充実を図ること。
2 傷病名
1 傷病名の記載又は入力
@傷病名の開始日、終了日、転帰の記載がない。
A実際の診療開始日と診療報酬明細書上の診療開始日が異なる。
B事務担当者が傷病名を記載している。傷病名は、必ず医師が記載すること。
C診療録に記載する傷病名は簡略化せず適切に記載をすること。
【例】「脂質異常症」を「脂異」と記載している。
2 傷病名の正確性
@医学的な診断根拠がない又は乏しい傷病名
A医学的に妥当とは考えられない傷病名
B疑うに足りる確実な医学的根拠に基づかずに、「疑い」の傷病名として記載しているもの
C実際には「疑い」の傷病名であるものにもかかわらず、確定傷病名として記載しているもの
D詳細な記載(急性・慢性、左右の別、部位)がない傷病名
E単なる状態や傷病名ではない事項を傷病名欄に記載している。傷病名以外で診療報酬明細書に記載する必要のある事項については、摘要欄に記載するか、別に症状詳記を作成すること。
【例】左大腿骨頸部異常陰影
F主傷病が明確となっていない。主傷病については原則1つとし、複数ある場合は「(主)」などと主傷病が判別できるように記載すること。
G主傷病は、当該保険医療機関における診療の中心となっている疾患であることに留意して判断されたい。
H傷病名が確定しているものについて、「疑い」の傷病名として記載している。
I処置、検査又は投薬に対応する傷病名がない。
JICD-10にない傷病名を付与している。
【例】潜在性心不全
3 レセプト病名
レセプト病名を付けて保険請求することは、不適切なので改めること。診療報酬明細書の請求内容を説明する上で傷病名のみでは不十分と考えられる場合には、別に症状詳記(病状説明)を作成し診療報酬明細書に添付すること。
@単純撮影(胸部)を行うために付与した「肺癌の疑い」
A健康診断として実施した検査に際して付与した「上気道感染症(MRSA)の疑い」、「ウイルス性肝炎の疑い」
B「キプレス細粒」の適応外投与に際して付与した「気管支喘息」
C「プランルカストドライシロップ」の適応外投与に際して付与した「気管支喘息」
D「アレロック顆粒」又は「アレグラドライシロップ」の適応外投与に際して付与した「アレルギー性鼻炎」
E「クラリス」の適応外投与に際して付与した「急性気管支炎」
F検査に基づかず、医学的根拠が乏しいにもかかわらず付与した「ビタミン欠乏症」
4 傷病名の整理
傷病名には正しい転帰を付して、適宜整理すること。
@非常に多数の傷病名
A長期にわたる疑い傷病名
B長期にわたる急性疾患等の傷病名
C重複して付与している傷病名
D診療報酬明細書において、傷病名が転帰の記載なく消失している例
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