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医道審議会による行政処分(医師免許取消し、医業停止)の仮の差止めの判例です。医道審議会に臨む医師の方は、医道審議会に強い弁護士にご相談下さい。

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4 医道審議会の判例(4):医師免許取消し、医業停止の仮の差止め

医道審議会に強い、医師のための弁護士です。

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弁護士鈴木が力を入れている医道審議会のコラムです。

ここでは、医道審議会の医師免許取り消し、医業停止の行政処分についての、仮の差止め申立て事件の判例のご説明を致します。取り上げる判例は、平成29年2月23日大阪地方裁判所の判決(決定)です。説明のために、事案等の簡略化等をしています。

医道審議会の行政処分に臨む医師の方は、医道審議会に強い弁護士への相談をお勧めします。医道審議会は、弁護士のサポートを受けるべきです。詳しくは以下のコラムをご覧いただければ幸いです。

1 弁護士による医道審議会の対応法

行政処分(医師免許取り消し・医業停止)の仮の差止めの裁判の実例


 1 事案の概要

精神科医師である申立人が、厚生労働大臣から、精神保健指定医(以下「指定医」という。)の指定を取り消す旨の処分(以下「本件指定取消処分」という。)を受け、さらに、医師法4条4号に規定する医事に関する不正の行為があった旨の弁明通知書の送付を受けたため、同法7条2項に基づく医師免許の取消し、医業の停止又は戒告の処分(以下「本件各処分」という。)がされる可能性があるとして、本件各処分の差止めを求める訴え(本案事件)を提起した上、本案事件の判決確定までの間、本件各処分を仮に差し止めることを申し立てている事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 申立人医師の身上
申立人は、平成13年5月7日、医師免許を取得し、平成21年1月30日に指定医の指定を受けた者であり、平成19年3月まで、A病院精神神経科に勤務していた。申立人は、平成22年12月から現在に至るまで、奈良県高市郡所在のB病院に勤務している。

2 本件指定取消処分に至る経緯
申立人は、C医師が平成23年6月24日付けで行った指定医の指定の申請に際して提出したケースレポートの「ケースレポートの証明 このケースレポートは、私が常勤として勤務したA病院において、上記期間中私の指導のもとに診断又は治療を行った症例であり、内容についても、厳正に確認したことを証明します。」との記載に続く「指導医署名」欄に署名し、もって、ケースレポートに係る症例の診断又は治療についての指導、ケースレポートの作成についての指導及びケースレポートの内容の確認を行ったことにつき、証明を行った。

厚生労働大臣は、平成28年7月20日付けで、申立人に対し、予定される処分の内容を指定医の指定の取消し又は職務の停止、根拠となる法令の条項を精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」という。)19条の2第2項、処分の原因となる事実を、要旨、C医師が、指定医の指定申請時に提出したケースレポートの対象症例につき、同医師自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例とは認められないところ、申立人は、同医師の指導医として、同ケースレポートに署名しており、これは、申請者のケースレポートの作成の際の指導・確認という指導医の責務を怠り、同法18条1項の要件を満たさない申請について要件を満たすものと誤認させ、不適切な指定医の指定を招いたと認められ、精神保健福祉法19条の2第2項所定の「その他指定医として著しく不適当と認められるとき」に抵触すると考えられること、聴聞の期日を平成28年8月12日午後2時からとする旨を通知した。

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課の厚生労働事務官は、平成28年8月12日、申立人及びその代理人出頭の下、申立人に対する聴聞を実施した。

厚生労働大臣は、平成28年10月25日、医道審議会医師分科会精神保健指定医資格審査部会長に対し、精神保健福祉法19条の2第3項に基づき、申立人を含む89名の指定医に対する指定の取消し又は職務の停止の処分について、意見を求めた。医道審議会医師分科会精神保健指定医資格審査部会は、同月26日、申立人を含む89名の指定医を対象に審査した上、申立人につき、「指定医の指定取消しを行うことが妥当である」との答申をした。

3 本件指定取消処分
厚生労働大臣は、上記答申を踏まえ、平成28年10月26日付けで、申立人に対し、「あなたが指導医として署名し、C氏が申請者として精神保健指定医の指定申請時に提出した『ケースレポート(第6症例)』は、ケースレポートの対象となった症例に係る診療録、その他病院からの提出書類の内容を勘案した結果、申請者自身が担当として診断又は治療に十分に関わりを持った症例とは認められなかった。この事実から、あなたは、申請者がケースレポートを作成する際の指導・確認という指導医の責務を怠り、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律…第18条第1項の要件を満たさない申請について要件を満たすものと誤認させ、不適切な精神保健指定医の指定を招いたと認められる。これは、精神保健福祉法第19条の2第2項に規定する『指定医として著しく不適当と認められるとき』に該当する」ことを理由に、指定医の指定の取消処分(本件指定取消処分)をした。

4 本件訴訟の提起、弁明通知書の送付等
申立人は、平成28年12月17日、本件指定取消処分の取消し及び本件各処分の差止め等を求める訴え(本案事件)を提起するとともに、本件指定取消処分の執行停止を求める申立て(当庁平成28年(行ク)第452号執行停止の申立て事件)及び本件各処分の仮の差止めを求める本件申立てをした。

当裁判所は、本件指定取消処分について、平成29年2月3日付けで、同処分の効力を本案事件の第1審判決言渡し後60日が経過するまで停止する旨の決定をした。

厚生労働大臣は、平成28年12月21日付けで、申立人に対し、「予定される不利益処分の内容」として「3年以内の医業停止又は戒告」、「不利益処分の原因となる事実」として「精神保健指定医の指定申請にあたり、申請者がケースレポートを作成する際の指導・確認という指導医の責務を怠り、C医師の第6症例のケースレポートに署名をしたこと(医師法第4条第4号に規定する医事に関する不正の行為)」、「弁明書の提出期限」として「平成29年1月20日(金)」と記載した弁明通知書を送付した。

 2 争点及び裁判所の判断

争点1 医師免許の取消処分の仮の差止めの適法性
【裁判所の判断】
法定抗告訴訟たる差止めの訴えの訴訟要件については、まず、一定の処分がされようとしていること、すなわち、行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があることが、救済の必要性を基礎付ける前提として必要となる(最高裁判所平成24年2月9日第一小法廷判決・民集66巻2号183頁)。

本案事件に係る請求は、申立人が、医師法7条2項に基づく医師免許の取消し、医業の停止又は戒告の処分(本件各処分)の差止めを求めるものであるところ、申立人に送付された弁明通知書には、「予定される不利益処分の内容」として、「3年以内の医業停止又は戒告」と記載されており、医師免許の取消処分は記載されていない。また、医師免許の取消処分を行うに当たっては、名宛人となるべき者に対し、聴聞(行政手続法13条1項1号ロ)又はこれに代わる意見の聴取(医師法7条5項)の手続を執る必要があるところ、一件記録に照らしても、このような手続が執られ又は予定されていることはうかがわれない。

以上の事情に照らすと、申立人に対し、医師免許の取消処分がされる蓋然性があるとは認められない。そうすると、本案事件の訴えのうち、医師免許の取消処分の差止めを求める部分は、当該処分がされる蓋然性があるとはいえないから、不適法である。

以上によれば、本案事件の訴えのうち医師免許の取消処分の差止めを求める部分は不適法であるから、本件申立てのうち医師免許の取消処分の仮の差止めを求める部分についても、適法な差止めの訴えの提起という手続要件(行政事件訴訟法37条の5第2項)を欠くこととなり、不適法なものとして却下されるべきである。

争点2 医業の停止処分及び戒告処分の仮の差止めの適法性
【裁判所の判断】
1 「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」
行政事件訴訟法37条の4第1項の差止めの訴えの訴訟要件である、処分がされることにより「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには、処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解するのが相当である(前掲最高裁判所平成24年2月9日判決)。

同法37条の5第2項は、仮の差止めの要件として、差止めの訴えに係る処分がされることにより生ずる「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があることを求めている。仮の差止めは、差止めの訴えの本案訴訟の結果と同じ内容を仮の裁判で実現するものであることから、差止めの訴えの要件である「重大な損害を生ずるおそれ」よりも厳格な要件として、本案判決を待っていたのでは「償うことのできない損害」を生ずるおそれがあり、これを避けるために緊急の必要がある場合であることを要件としているものと解される。したがって、「償うことのできない損害」を生ずるおそれがあると認められるためには、処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされる前に仮の差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要し、かつ、「重大な損害」よりも損害の回復の困難の程度が著しいことを要すると解するのが相当である。

2  申立人が主張する損害
申立人は、医業の停止処分がされると、
@たとい一定期間であっても医師としての業務は一切することができず、申立人は直ちに収入を絶たれることになる、
A申立人が担当する多数の患者の診察等を他の医師に委ねざるを得なくなり、精神科医師としての社会的信用は著しく低下し、患者やその家族との信頼関係も損なわれる、
B措置診察や移送のための診察などの公益的な業務を行うことができず、地域医療への影響が生じる、
などと主張する。

しかし、D病院の医師に対する医業の停止処分については、平成27年10月1日付けで、同月15日から医業の停止を命ずる処分がされており、処分がされた日から実際に医業を停止すべき日まで2週間の猶予期間があることが一応認められ、仮に申立人に対して医業の停止処分がされたとしても、処分がされた日から実際に医業を停止すべき日まで上記の場合と同程度の猶予期間が設定される可能性が高いと考えられる。そして、申立人については、本件指定取消処分の執行停止が既に認められており、仮に申立人に対し医業の停止処分がされたとしても、直ちにその取消訴訟を提起し、併せてその執行停止を申し立てることにより(なお、本案に関する主張及び疎明は、本件申立てと基本的に同じもので足り、重大な損害等に関する主張及び疎明は、本件申立て及び本件指定取消処分の執行停止の申立てとおおむね同様のもので足りる。また、このことは、意見を求められる相手方においても同様である。)、申立人が実際に医業を停止すべき日までにその執行が停止されることが十分に見込まれるというべきであり、医業の停止処分により上記@からBまでのような事態が生ずるおそれがあるとは認められない。申立人の上記主張は採用することができない。

申立人は、医業の停止処分や戒告処分は実名をもって公表されるため、申立人の医師としての名誉や信用は損なわれ、その後、医師を続けることすら容易ではなくなるかもしれないなどと主張する。

確かに、医業の停止処分や戒告処分を受けたことが実名をもって公表されれば、申立人の医師としての名誉や信用が一定程度損なわれることは否定し難い。しかし、このような名誉や信用の低下は、それ自体が直ちに「償うことのできない損害」に該当するとはいえず、その名誉や信用の低下により申立人が医師としての活動を続けられなくなるなど、これにより金銭賠償による回復が不可能又は著しく困難な損害が生ずるおそれがある場合に、これに該当するものというべきである(第159回国会衆議院法務委員会会議録第24号山崎潮政府参考人答弁参照)。しかるところ、申立人については、既に本件指定取消処分を受けたことが公表されているものの、現時点において、その名誉や信用の低下により、医師を続けることが困難になっているとは認められない上、本件と同様の理由により既に医業の停止処分を受けたD病院の多数の医師につき、医師としての活動を継続することができなくなっているといったような事情もうかがわれない。

以上に加えて、医業の停止処分又は戒告処分が判決により取り消されれば、名誉や信用の低下も相当程度回復するとみられることや、現時点における主張及び疎明資料の下では、「本案について理由があるとみえる」とまでは断じ難いことも併せ考慮すると、本件の事情の下では、医業の停止処分又は戒告処分がされることにより「償うことのできない損害」を生ずるおそれがあるとまでは認められない。申立人の上記主張は採用することができない。

 3 判決(決定):結論

主文:本件申立てを却下する。

その余の点について判断するまでもなく、本件申立ては仮の差止めの要件を欠くから、これを却下することとして、主文のとおり決定する。


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